
ALT ラーメン屋に行ったら、旭さんがいた。 「おう。お前らもこの後勉強会か?」 一部訂正。旭さん|達《・》だ。大地さん、スガさんも一緒にラーメンをすすっている。 「はい、そうです。大地さん達も?」 「ああ、まあな」 かく言う俺も一人じゃない。真っ先に返事した力を筆頭に、いつもの2年5人組。ここでラーメン食った後に龍の家で期末テストに向けた勉強会の予定だった。 「任せたぞ、縁下と成田。コイツらの成績はお前達にかかってるからな」 「……努力はします」 大きな溜息と同時に寄越される、力からの視線。まさに『恐怖』の具現化のようなそれは、真っ向から受け止めれば俺の命が危うい。本能に従い力一杯目を逸らしたら、その先にいる旭さんと目が合った。 「俺!こっちで一緒に食っていいっすか!」 「あっ、ノヤっさんズリイ!」 龍の恨めしそうな声を背に、俺はサッ、スッ、ストン、と旭さんの隣に座った。この店のテーブル席は全部4人掛けだから、最初から2テーブルに分かれなきゃ全員座れないところだったんだ。3年生プラス俺で4人、残りの4人でそれぞれひとテーブルずつ。どうだ、完璧な配置だろ。断じて力から逃げ出した訳じゃない。断じて。 「テスト勉強、ちゃんと頑張るんだぞ」 「わぁーってますよ」 旭さんが開口一番、ガキをあやすような口調で言った。なんだよ、自分だってそこまで勉強得意じゃねえくせに。 俺の不満ダダ漏れな顔に気付いたらしい旭さんは、麺を持ち上げていた箸を一旦置いて、すいっと体を

ALT 寄せてきた。 「だって、補習になったらバレーできないだろ?俺、西谷といっぱいバレーしたいよ」 ──ひっそりと、囁くような声。 旭さんは俺の扱い方をよく知ってる。何を言えば俺がやる気を出すのかしっかり分かってる。 癪なのは、それに全く他意がないことだ。やる気以外のどんな感情を俺に呼び起こさせるのか、それに気付かないまま、素でこれをやるんだからタチが悪すぎる。 「……じゃあ、頑張ったら、ご褒美くれますか」 「え?そうだなあ、うん、いいよ」 そっちがその気ならこっちだってやってやろうじゃねえか。俺の提案に旭さんは笑顔で頷いた。言葉に込められている真意には欠片も気付かずに。 「何がいい?あ、でもあんまり高すぎる物は小遣い厳しいからちょっと無理かもしれないけど……」 「ンなもん要求しねえっすよ。テスト終わったら、俺の欲しいもの教えます」 俺が|本当に欲しいもの《・・・・・・・・》を言ったら、この人はどんな反応をするだろうか。驚いて、狼狽えて、ビビって逃げ出すだろうか。まあ、何をどうしたって絶対に逃がしやしねえけど。 ともあれこれで旭さんから言質を得たんだから、俄然やる気も出てくるってもんだ。 「──ッシャアッ!やってやるぜ!」 「あ、こら、西谷、あんまり騒いだら……」 「おい、そこ二人、うるさいぞ」 「旭ぃ、ちゃんと西谷の手綱握っとけよー」 「ほら……俺も怒られたじゃん……」 大地さんとスガさんに注意されて背中を縮こまらせた旭さんを横目に見ながら、俺も届いたばかりのラーメンに食らいつく。気合万全、今なら三杯くらいは軽く平らげられそうな気分だった。

ALT 「──当然、旭さんからのご褒美は『全教科で平均点超えたら』だよな」 「んぐぅッ!?」 背後から力に冷や水ぶっかけられるまでは。 へ、平均……だと……?毎回赤点ギリギリの俺が……? 「『頑張ったら』なんて、そんな曖昧な基準でご褒美ねだってたら男が廃るよな。やっぱり平均くらいは取らないと」 「うわあ……」 「鬼……」 振り向けば、嫌みったらしく笑う力に、憐れみの表情で俺を見つつも一切擁護してくれない一仁と久志。龍はとばっちりを避けるためか必死に目を逸らして他人の振りだ。 クソ、薄情な奴らめ。しかし確かに力の言う通りではある。この俺が、このまま逃げる訳にはいかねえだろ。 「──っ、たり前だぜ力!やってやるよ全教科平均超え!」 俺は拳を突き上げて吠えた。大地さんの怒りの気配が膨らむが、今はンなこと構っちゃいられねえ。 隣から、毒気の抜けるような呑気な拍手の音がした。発生源はもちろん、旭さん。 「おー。西谷、頑張れよー」 あーあ。俺が誰のために努力しようとしてるのか、分かってんのか。いや、分かってねえんだよな、当然。 無事に快挙を達成した暁にはその辺もきっちり教え込んでやらねばなるまい、と、俺は決意を新たにした。



































