
ALT (怪文書注意・紡乃世攻め) わたしの背中に、不意に、柔らかな温もりが重なった。 「……詞音ちゃん?」 背後からするりと回された細い腕が、わたしの首元をそっと抱きすくめる。背中越しに伝わる彼女の規則正しい心音は、とても穏やかで、凪いだ海のように静かだ。 さらり、と耳元の髪を掻き分けられる。びくっと肩が跳ねた直後、首筋の最も薄い皮膚に、温かくて湿った感触が這った。 「ひゃっ……ぁ、ちょっと、詞音、ちゃん……っ」 情けない声が漏れる。ちろり、ちろりと、柔らかな舌先が首筋の一点を執拗に、けれど酷く優しく舐め上げている。そこにあるのは、いつかの激しい衝動によって彼女自身が刻み込んだ、赤みを帯びたキスの痕と微かな噛み跡だ。 彼女はあの日につけた痕を愛おしむように、そしてその熱を舐め取って癒やそうとするかのように唇を這わせる。それは完全に警戒を解き、心を許し切った小動物の毛づくろいのような、無防備で純粋な愛情表現だった。 「……痕、まだ消えてないね」 「っ、誰が、こんなに強く噛んだと……」 「ふふ。ごめんね。でも……綺麗」 耳元で囁かれる声に、以前の戸惑いは微塵もない。あるのは、自分がつけた所有印への静かな満足感と、わたしに対する絶対的な安心感だけ。 (……おかしいな。こうなるはずじゃ、なかったのに) 顔から火が出そうになった。あの時、彼女の理性を揺さぶったのはわたしだった。「小悪魔的な親友」として、優位に立っていたはずだったのだ。 けれど今のわたしに、そんな余裕は欠片も残されていない。逃げ場のないほど深く重たい愛情で包み込んでくる詞音ちゃんの前では、どんな悪戯心もただの強がりとして溶かされてしまう。 「湊音ちゃんは、私だけのものだよね?」 ちゅっ、と優しいリップ音を響かせ、彼女が甘く囁く。 「……うん。そう、だよ」 その波一つない愛情の重さに、わたしは真っ赤になって頷くことしかできなかった。 彼女を狂わせた甘い毒は、いつの間にかわたし自身をも深く侵食していたらしい。自分が仕掛けた罠だったはずなのに、気づけばわたしは、紡乃世詞音という底なしに甘くて居心地の良い檻の中から、二度と出られない体になっていた。 ――私たちはもう、あの頃の無邪気な親友には戻れない。 互いの熱と痕を求め合い、静かに依存し合う。私たちはこの甘い檻の中で、いびつで美しい青春を手に入れたのだ。



































