
ALT 祖母の家には薔薇園がある。 見頃を迎えれば私たち一家は祖母の家に行き薔薇を見る。 その薔薇園には小鳥が住んでいて、日が落ちるとどこからともなく小鳥の歌が聞こえてきた。 「ナイチンゲールよ」と、祖母は教えてくれた。 ナイチンゲールは恋を歌う。日が落ちて薔薇園が暗闇に包まれてもここに恋は在るとでも言うように。 祖母の薔薇園では赤い薔薇が咲く。 どうして赤い薔薇なのかとある時に聞いた。 「昔好きだった人が、私に一番似合う花だと言ってくれたの」 恋に落ちた心を、愛を、伝えるために添えた花だった。未来を共に歩むための約束の花だ、と祖母は言う。 どうやらその人とは祖父のことではないらしい。諦めとも憂いとも思える眼差しで祖母は赤い薔薇を眺めていた。 その晩も、ナイチンゲールの歌が薔薇園を渡っていった。 耳を澄まして聴いていると、その囀りがなんとなく祖母の名前を呼んでいるようにも聞こえた。

ALT 「これが恋なんだ!」私は声を上げた。 親から伝え聞くおとぎ話のように不確かなそれを今、私は、初めて見つけた。 彼は草原の上に倒れていた。 血の匂い。照らすものが覆われたこの夜では漆黒にしか見えない液体が彼を中心に広がっている。きっと彼自身の命から溢れているのだろう。 彼はぼんやりと空を見上げ、口ずさむようにある言葉を紡ぎ続けていた。 とても素晴らしい歌!この地ではずっと破裂の音や低い咆哮で溢れていたのに。 「あなたの恋を歌いたいわ!」 紡ぎ続けるその言葉を私は模倣して、歌へ、歌へ、歌へ成した。 「小鳥かい?」 彼は私を見た。その眼からは光が失せていて、恐らくもう何も見えていないのだと思う。 「ただ一人で死んでいくのは悲しい。でも、小鳥が側に居てくれるなら寂しくない。彼女も、側に居る……」 彼の右手が彼の胸に触れた。 もう一度だけ恋の言葉を口にして、一呼吸した。彼は目を閉じ、そして動かなくなった。 雲の隙間から月の光が差した。 彼の胸には一輪の赤い薔薇が添えられていた。 この薔薇は彼の恋だ、と思った。 私達の歌が恋であるように、薔薇の花はその花弁の重なりが恋である。 もしこの薔薇と同じ花弁が、同じ芳香を持つ物がどこかにあるとすれば、そこにはまた私の恋がある。 辿り着けるだろうか?私でなくてもいい。私達は歌い繋いで行くことができるのだから。 私達の恋。 それは彼が最期まで口にし続けた、故郷に残した恋人の名前。


















































